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マンガ/荒川アンダーザブリッジ5巻/中村光 

「なんかぁたし近頃超ブルーって感じでぇ、少しでも笑ぃたぃってゅぅか、幸せに生きてぃきたぃみたぃなー。そんなぁたしが元気になってこの荒れ果てた心を抱えたままでも前に進んで行こう的なはじめの一歩を踏み出そうぜ的なぁ、そういうのなぃー?映画とかぁ音楽とかさぁ。ぁ、ちなみぁたし文字とかほんと苦手でぇー、なるべく簡単なやつってゅぅか出来れば漫画でょろ49みたぃなぁ。ギザよろすく。」
みたいなー、こういう中途半端にマンガに実用性を求めてる人に、何か自分が必要としているであろう作品を紹介してくださいって言われたときに私が最初にオススメする作品、それが尾玉なみえ先生の『少年エスパーねじめ』です。

いやもうこの作品が面白いのなんのって。2巻で終わっちゃうっていうか週刊少年ジャンプに打ち切られたんですけど、その打ち切られたっていうエピソード自体がもはや狙ってるとしか思えないような勢いを感じさせてくれます。木多康昭先生の『幕張』とか『泣くようぐいす』と同じ雰囲気がまた素敵です。
打ち切られたと言えば大亜門先生の『太蔵もて王サーガ』もついに終わってしまいました。同時に打ち切られた『メゾンドペンギン』の大石浩二先生と共に、ジャンプの最後の作者の一言ページで申し訳なさそうにしていたのが哀愁を誘いましたが、むしろその姿も含めて狙ってるとしか思えませんでした(そんなことないだろうけど)。

最後の最後まで笑わせてくれた素晴らしい漫画家に敬意を表し…あぁ違う、今回は荒川アンダーTHEブリッジの新刊の感想です。アンダーザブリッジ、オーバーザレインボーみたいな。

荒川アンダーザブリッジ 5 (5) 荒川アンダーザブリッジ 5 (5)
中村 光 (2007/05/25)
スクウェア・エニックス

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あらすじをちゃちゃっとまとめてしまえば、荒川のホームレスがそこに独自の常識やライフスタイルを築き上げて社会と戦うお話です。多様性を認めることが表向き認められている現代社会の中で、マージナルな存在とされた荒川アンダーザブリッジの人々が、社会に組み込まれるのではなくそれとは別の社会を作り出していくという所謂社会派漫画というジャンルに位置する…嘘ですすみません。
ホームレスの話っていうのは間違いではないけど、基本的に若くて清潔な人が出てきて、さらに主題は恋愛だったりします。そして何よりギャグ漫画です。しかも面白いです。

正直いうとギャグなんだけど、キャラ配置はベタベタです。これでもかっていうくらい。理不尽な世界、(現実世界の)常識の通用しない世界にマトモな主人公が無理やり投げ込まれる、みたいな感じです。
基本的にはジャガーさんとピヨ彦とハマーで成り立ってます。わかりやすくて絵も綺麗だからギャグマンガの入門に。

ただし今回は内容とはあまり関係ない感想を。いや関係あるけど。
一応主題は恋愛と置きます。父親との関係とかエヴァンゲリオン的なものはとりあえず措いて、リクルート(リク主人公男)とニノ(ヒロイン)の恋愛物として解釈します。
かなり一般論に持ってくので、覚えておくのはリクとニノが付き合っていることと、出会ってから数時間で付き合うことになったこと=全くお互いのことを知らない状況で付き合っている、ということくらいです。

そういう視点でこの5巻を見ると、一つの山場があったと言えます。それはリクがニノの宝物(秘密)であるカセットテープの内容を知ろうとする場面です。
第128話、金星からのメッセージという話の中でリクはニノの大事にしていたっぽいカセットテープを聞く決心をするのですが、ここが要チェックや!って場面です。
実はその前に変な新キャラが出てきてて、そいつもニノのカセットを聞こうとします。でもリクはそれを駄目だって言うんですね。ニノの大切なものかも知れないから勝手に聞くのは駄目だと。真っ当です。

しかしその変なやつ(マンガ家)が去った後、一人になったリクはカセット聞こうとします。

他人の物を勝手に聞くなんてよくないからね…他人の物を…
まぁ俺は 他人じゃなくて恋人だけど…


マンガ家他人、自分=恋人というニノとの関係性の強さを根拠に、リクはカセットの再生ボタンを押してしまうわけです。でもそのすぐ後に自分でこう言います。

だって気になるんだもん!
俺 ニノさんのこと全然知らないし!


ってうおい!

こんなわざわざセリフまで引用して言いたいのは「恋人だからってやっていいことと悪いことがあるのよっ!男なんてっ!失望したっ!」みたいな話ではなく、じゃあ恋人他人ってどう違うんだろうという問題です。
リクはマンガ家のことをニノにとっての他人と位置づけ、自分のことをニノの恋人という関係にあるとしています。確かにリクとニノは付き合っていることになっているので状況把握としては間違ってないのですが、知り合って数時間で付き合うことになり、その後も恋愛的な発展は見せていない(デートは1回だけ)にも関わらず、恋人であるという形式的事実が括弧として継続されている状態の人を恋人と呼べるのか。決定的なのはリク自身、ニノのことを全く知らないと自覚していることです。

…相手のことをよく知らない人のことを基本的に他人というのではないでしょうか。そうするとリクは恋人と他人をどう区別しているのか。
ニノリクは出会って数時間で成り行き上付き合うという誓約をし、お互いに確認は済ませてあります。リクはこうした形式に頼ることで他人と恋人を区別している。
内面がどうとか好きとか嫌いとかという次元に踏み込める程、ニノのことを知らない。それでも恋人という縛りがあるので、その中で一生懸命恋愛ゲームをしているリクの嘆かわしさ…。

でも大事なのはリクが恋愛ゲームをゲームでなくすためにニノを知ろうとすればする程、ニノは恋人でなく他人だということを再確認せざるを得ない。
リクがカセットテープを聞いた後で、ニノがニノでなくなる=他人になる、ということです。
凄く簡単な例を挙げていうと、THE BEATLSに『Lucy in the Sky with Diamonds』という有名な曲があります。良い曲なので好きな人も多いと思いますが、「この曲はLSD使ってた時の曲だよ」ということを教えると、それを知らなかった人でかつ倫理的だったりすると、ガッカリして今まで好きだった曲が別の曲に聴こえる様になってしまう、みたいなことがあります。曲名の大文字を繋げると…という逸話は有名です。
曲自体は何も変わっていないのに、それに付随する情報によって受け手側の意識、曲の聞き入れ方や受け止め方が変化してしまう。全く別の曲になってしまいます。曲の本質(メロディーラインや歌詞)には何の変化もないにも関わらず、別の印象を持たされてしまう。

リクが付き合っている恋人としてのニノはあくまで「リクの知っている限りのニノ」でしかありません。それはリクが勝手に作った自分内のニノイメージです。
リクがニノの知らない部分を知った瞬間から、リクの内にあるニノイメージ更新されます。更新はファイルの上書き保存みたいなもので、上書きしたらもう後には戻せません。更新前と更新後のイメージは全く別のものになっています。
それでも本質としてのニノがニノであることには何も変化はないのに。

一般的には更新後であっても「そんな意外な一面もあったんだ」程度の差異でしかないので問題にはなりません。でも更新前後の差が大きい場合はどうでしょう。
更新前の「夢をもって努力しているカレ」から、「実はひきこもりでアニオタニートのカレ」にイメージが更新されたとき、それを同じ人間として同じように接することができるでしょうか。恋人として同じように好きでいられるでしょうか。

リクがニノの秘密を知ろうとしたのには、
「今のニノイメージは情報が少なくて本当のニノとはほど遠い」
「このイメージ像はアップデートして本当のニノに近づけるべきだ」
「そして本当にニノさんを好きになる(好きでいられる)」
みたいな純愛回路によって動かされた部分が大きいのだと思います。
でもカフカの『変身』のように、ある日急に全く別の姿に変えられた恋人を恋人としてみなすことができるか。そもそもソレを恋人と気づくことができるのか。街なかですれ違っても気づかない程に変化してしまっていたら、それは他人じゃないのか。

ニノは金星人(電波系)という設定なのですが、落ちとしては本当に金星人で形態を人間らしくして地球に来てた、くらいなのを期待します。んでその金星人としての形態っていうのがもうめちゃくちゃで、エイリアンみたいな感じで、そうなったときにちゃんと恋人って言えるかどうか問われるリク…。ないなぁ。
とにかく、相手を知るというのは相手が他人になる瞬間を通るということで、他人になった後に恋人関係を継続できるかどうかは分からないってことです。
なのであんまり秘密を暴くようなことはしない方がいいと思います。相当の覚悟がない限りは。「女は秘密を着飾って美しくなる」ってコナンのベルモットが言ってましたよ!

ちなみに中村光先生は年下でした。涙が出ました。サイン会に行きたかったです安西先生。

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  • [2007/06/11 21:20]
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